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2017/6/20 7月1日香港返還20周年を前に
                    ~尖沙咀からの叫び “圧し掛かる中国への抵抗”~

「香港は1冊の難解な書だ。」と言われる。その香港で、今何が起こっているのか、いや起ころうとしているのか。香港の人々が危機感を募らせたある2つの事件から推測することができる。

1つ目は、香港の書店「銅鑼灣書店」の関係者5人が失踪し、中国国内で長期拘束された事件だ。
そして、2つ目は、中国の大手投資会社の実質的な経営者・肖建華氏が失踪した事件。400億元(約6,600億円)の個人資産を持ち、香港に長期滞在していたが、共産党幹部の汚職情報を知っていたため、連行されたとの見方などが伝えられた。香港メディアの報道の後、肖氏の会社のソーシャルメディアのアカウントには、肖氏の名で「外国で療養中で、無事だ」との投稿があった。ただ、中国本土では出版できない共産党の批判本を扱っていた香港の銅鑼湾書店の関係者が失踪した事件でも、家族に無事を知らせる連絡が相次いだことから、展開が似ているという事件である。

香港は「一国二制度」の国だ。中国の下、外交と国防を除く「高度な自治」と資本主義制度の維持が英国から返還後 50 年間、「特別行政区」と位置づけられた香港に認められ、共産主義と 2 つの制度が併存している。香港の憲法といえる「基本法」では言論や集会の自由が保障され、共産党一党独裁への批判や抗議デモも合法的に行える自由な国のはずである。ところが、上記のような事件が起こっている現実は、中国が香港に対し言論統制をかけている証左である。

昨年12月に香港大学が香港住民を対象に行った民意調査では、自分を「中国人だ」と考える人が16.3%。10年前と比べてほぼ半減した。若者に「自分は中国人ではない」と考える傾向が強く、自分の帰属先を示すアイデンティティー問題はこの20年で大きく揺れた。2008 年の北京五輪以後、中国にナショナリズムが高まり、北京から香港への政治介入が一段と露骨になり、肌感覚で『自由』が侵されると香港住民が意識して尊厳に目覚め始めた。香港住民のアイデンティティーは香港にあり、彼らは「私は、香港人」と言って憚らない。全体主義の中国と自由主義の香港という『中港矛盾』は拡大されつつある。

そのことが如実に表れた行動が、「雨傘運動」という、選挙制度の民主化を要求して、2014年9月から12月にかけての79日間、香港中心部の幹線道路を若者らが占拠した大規模デモだ。その映像は、全世界に発信され、多くの人々がデモの成り行きに固唾を呑んで見守っていたことだろう。黄色の傘は、「民主化」の象徴的な存在となった。その後、20代の若者を中心に「民主自決」を掲げた政党「香港衆志」を立ち上げて、同年9月の立法会選で23歳の羅冠聡党首を史上最年少で当選させた。「香港独立」を打ち出した「青年新政」も当選者を出し、一気に、民主化への機運が高まっていった。

しかし、習近平指導部の“反撃”により、北京の意をくんだ香港の高等法院(高裁)が、当選した青年新政の新人議員2人の「就任宣誓」をめぐって資格を剥奪。李克強首相は3月、全人代での演説で、「“香港独立”に前途はない」と初言及した。親中派の重鎮で立法会前議長の曽鈺成氏は、7月1日の返還20年式典で香港を訪れる予定の習氏が、「次期長官の林鄭月娥氏に、香港で国家分裂や反逆などを禁じる条例制定を求めるだろう」とみる。新疆ウイグル自治区やチベット自治区並みに弾圧する狙いだ。5年に1度の党大会を今秋に控えた習氏。強硬策に出るか、混乱は回避するのか。

今月15日、「雨傘運動」の元リーダーである「香港衆志」の黄之峰秘書長と周庭副秘書長は、日本記者クラブで会見し、「雨傘運動後も(民主活動家への)政治的な迫害が進んでいる。一国二制度は危機的状況で、一国一・五制度に変容した。三権分立、司法の独立のほか、個人の安全も脅かされている。何が香港で起きているのか知ってほしい。」と現状を訴えた。雨傘運動以降、中国に失望した若者の一部には、中国からの独立を求める声も出ている。黄氏は「私は香港独立を主張しない。香港政治の将来は香港人に決める権利がある。」とする「自決派」の立場を示した。

経済に関しても、中国マネーの流入により、香港の不動産価格の上昇が止まらない。香港政府が発表した4月の住宅価格指数(1999年=100)は327.4と前月比2%上昇し、6ヵ月連続で過去最高値を更新した。米調査会社によると、2016年の香港の住宅価格(中央値)は家計年収(同)の18.1倍と、7年連続で世界一であり、日本や世界の平均値の4倍を大きく上回る。それでも、面積30平方メートル足らずの新築マンションで、販売価格が約400万香港ドル(約5,700万円)と高額にもかかわらず、抽選会には長蛇の列ができる。今後も値上がりをする前に購入したいと考えるからだ。若者には、手が届かない価格である。

中国の言論の締め付け圧力の強まりや巨大マネー流入による生活圏への侵食は、若者のアイデンティティーに火をつけ、反中感情がさらに高まっていくことが予想される。閉塞感のある社会には未来がない。若者の怒りは、どこに向かうのだろう。「難解な書」の表紙が、中国国旗に塗り替わるのだろうか。「一国二制度」で保障されたはずの民主的な社会の行く末を案じてならない。

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